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Quiet Day

「BANANA FISH」二次元妄想小説サイト。

チルドレンズ・タイム ~その後~ 

シンは沸騰した頭を抱えて、おんぼろビルの階段を駆け下りた。
金髪の少年の恫喝が、頭の中を何度もこだまする。

『何もするな!!』

畜生、畜生、畜生。

シンは歯ぎしりした。

手を貸そうとしたのだ、自分は。
それが、今は亡きボスの望みでもあると信じてた。
なのに差し出した手は、無造作に叩き落されたのだ。
よけいな世話だと、おまえでは役不足だと、
暗にそう告げながら。

「おい、なに血相かえてんだ。何かあったのか?」
「うるせぇよ」
心配げに声をかけてくるラオを無視して
シンがバイクのエンジンをかけようとしたとき、
アッシュと英二が連れ立って階段からおりてきた。

「ちょっと待ってて!」
英二はそうアッシュに呼びかけると、
まっすぐこちらへ走ってきた。
「シン!」
「なんだよ、でけぇ声で…って、おい!」
とびついてきた英二に、シンは思わずよろめいた。

「ありがとう、シン」
「…何がだよ?」
「何もかも。ぼくにしてくれたことも、
アッシュにしてくれようとしたことも、みんな」
「あー…」

シンの視線が宙を泳ぐ。
さっきまでの怒りが、あっけなく霧散していくのがわかった。
どうもこいつが相手だと、調子が狂う。

「ま、いいってことさ。気にすんな」
仕方なしに、シンは英二の背中をかるくたたいた。

「英二、何やってる! 帰るぞ!!」
アッシュの鋭い声がとぶ。
英二が大声で叫び返した。
「待ってて! すぐ行くから!」
「ひゃー、おっかねー…」
肩をすくめ、シンは英二の目をのぞきこんだ
「おまえ、大丈夫か?」
「え? なにが?」
「それだよ、それ」
シンはあごをしゃくって、彼の胸元から見え隠れするアザを示した。
「事情をおおっぴらにしないってのは了解したけどな。
あのでたらめにカンのいいあんちゃん相手に、
おまえ、それを隠し通す自信あんのかよ」

英二は真剣な目つきで、それを検討しているようだった。
やがて肩をすくめ、あっさりと言った。
「ないね」
「ないって…」
シンは脱力した。
何をのんきな。

「アッシュのカンのよさは、特別だからね。
ぼくはポーカーフェイスが得意じゃないし、
きっとあっさりバレちゃうんだろうな」
「…また、ずいぶんとあきらめがいいんだな」
思わず皮肉な口調になった。
オレをさとした時とは、えらく態度が違うじゃねぇか。

「あのときはアッシュがいなかったから、
誰かが早まったことをするかもって心配だったんだ。
でも大丈夫。アッシュは戻ってきたし、
彼はきみたちとコトを構える気なんてないさ」

楽観的な英二の言葉に、シンは素直にうなずけなかった。
たしかに、アッシュは自分たちと小ぜりあいを起こしているほどヒマじゃないだろう。
それでも、目の前でのどかに笑っている少年に関しては、
彼の耐性をかなり低めに見積もるべきだと、シンの本能が告げている。

その懸念を裏付けるかのように、通りのほうから殺気だった声がとんだ。
「英二!!」
「いま行く!」
英二は叫び返すと、
「ほんとにありがとう、シン」
最後にぎゅっとシンを抱きしめ、そちらへ走っていった。

シンが目で追うと、通りの正面につけられた車に
アッシュが英二と乗り込もうとしていた。
そのあからさまに苛立った顔つきに、
ふと、シンの中にいたずら心がわいた。

シンはそのままぶらぶらと車に近寄ると、かがんで英二に呼びかけた。
「英二、バイクに乗りたくなったらいつでも来いよ。
また後ろに乗せてやるぜ」

そのセリフに、アッシュの眉が正直につり上がる。
英二が嬉しそうに、窓から身を乗り出した。

「うん! …でも、ほんとにいいの?」
「おう。いつでも来いよ」
「ありがとう。きっとまた来るよ!」
「何グズグズしてんだ、早く出せ!」
アッシュがいまいましそうに、運転席に向かって吐き捨てた。
アレックスがあわてて、イグニッションキーをひねる。

おーお、気が立ってる。
シンはほくそ笑み、余裕しゃくしゃくで英二に手を振った。

「じゃあな、英二。けっこう楽しかったぜ」
「うん、ほんとにありがとう、シン」
「アレックス!!」
「イエス、ボス!」

そこで、やっとエンジンがかかった。
車は何度か胴震いしたあと、
やがて飛び出すような勢いで走り去っていった。
そのあわてふためいた後姿を、シンはクスクス笑いながら見送った。

「なんだ、おまえ、えらくあのジャパニーズが気に入ったみてぇだな?」
「んー? まあな」
面食らったようなラオに、シンはさっきまでとはうってかわった上機嫌さで返事をかえした。
空をあおぐと、冬の雲が早い動きで走り去ろうとしている。

ま、これくらいの意趣返しはさせてもらわねぇとな。

END


このあと、当然アッシュにコトのいきさつがバレ、
そこから大人の時間が…(ウソ、うそです)

Posted on 2011/02/13 Sun. 12:14 [edit]

category: BANANA FISH(創作)

thread: 二次創作小説(版権もの  -  janre: アニメ・コミック

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コメント

テンプレートかわいいですv 

バレンタイン仕様ですねv カワイイです ^^

新作、またしてもすっごく良かったです!
って何かいつも同じ感想のような…… スミマセン ;;

でもホントに面白かったです☆
英二に毒気を抜かれたシンの表情とか、
それにカリカリするアッシュの苛ついた顔とか、
目に浮かぶようでした。
シン、あのアッシュ相手に “ してやったり! ” ですね ^^

実はこのお話がUPされた直後くらいに1度アクセスしてまして、
「 きゃっほ~う! 東雲さんの新作だ~! 」と読ませて頂いたんですが…
今また読み返しに来たところ、細部が少し変更されたんですね。
両方を読むことができて、
バナナファンであると同時に東雲さんファンでもある私は
超得した気分ですっvvv

URL | 芙月 #YVWDSDMY | 2011/02/13 15:39 | edit

Re: テンプレートかわいいですv 

わー、テンプレートをおほめいただいてしまった♪
ご指摘の通りバレンタイン仕様なので、明日で撤去のさだめです。
いま、芙月さんのところもスイートなTOP絵ですよね。
四季折々のイベントをBANANAで味わう、二次元おたくな私です…

そしてこちらにも感想をいただき、ほんとにありがとうございます~!!
シンが出てくると、のろくさい私の文体も、
少ししゃっきりしたような気分になるのが不思議です。
小さくてもピリッとアクセントのきいたキャラなので、
話に活を入れてくれるような。

> 今また読み返しに来たところ、細部が少し変更されたんですね。

きゃー、バレてしまったのですね!
じつはアップして1~3日くらいは、しつこく手を入れ続ける癖がありまして…
事前の推敲をちゃんとやれよ!の世界ですよねぇ。
つい先日は「終わりなき~」の一作に、3行くらい文を追加しました。
ほとんど間違い探しの域なので、お暇なときにでもさがしてみてくださいまし。

URL | 東雲 #- | 2011/02/13 22:33 | edit

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