01 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.» 03

Quiet Day

「BANANA FISH」二次元妄想小説サイト。

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Posted on --/--/-- --. --:-- [edit]

category: スポンサー広告

TB: --    CM: --

--

甘い爆弾 -前編- 

※パラレル。「アッシュが死ななかった未来」

3年前、彼は年上の保護者と共に、その空港へ降り立った。
未知の国への、はちきれそうな期待を抱えて。

いま、彼はひとりでそこにいた。
ジョン・F・ケネディ国際空港。
同行者は、いない。
迎える人もいない。
それでも、彼の心はあの頃と同じように浮き立った。

急ぎ足で行き来する人を見渡し、その空気をそっと胸に吸いこむ。
からりと乾いた、どこかスパイシーな香りがする独特な空気。

ああ、変わらない。
彼は微笑んだ。
この地を離れてから、一年あまり。

奥村英二は、再びNYへ戻ってきた。


安手のホテルにチェックインすると、
英二はすぐ街へ飛び出した。
やらなければならないことがたくさんある。
会わなければならない人たちも。

それでも、まず何より先に彼に会いたかった。
財布にいつも入っている写真の中から、
挑戦的な目でこちらを見つめている少年。
彼に会うために、英二ははるばるこの国へ戻ってきたのだ。

贈った航空券が、使われることはなかった。
何度も書いた手紙に、返事がくることも。
伊部を経由してマックスから聞いた話によると、
アッシュは自分とはもう二度と会わないといっているらしい。

あの意地っぱり。

英二はぎゅっと口もとを引きむすんだ。
構やしない。
そっちが来ないなら、こっちから行くまでだ。

たどりついた高級アパートメントの最上階の窓を、挑むように見上げる。
退屈そうに玄関前にたたずんでいたドアマンの目が丸くなった。
「英二?! なんてこった、ずいぶんひさしぶりじゃないか!」
「お久しぶりです。クリス、いますか?」
「ああ、きょうはまだ見かけてないから、いると思うよ。
今回は旅行かい?」
「いえ、またNYに住む予定なんです」
「ほーぉ! じゃあ、またここへ戻ってくるんだね?」
「うーん、ぼくはそう望んでるんですけど」
どうなることやら。
うれしそうに話しかけてくるドアマンに微笑み返しながら、
英二はこっそり胸の中でつぶやいた。

エレベーターが止まり、開いた扉の先には、
ふかふかのカーペットが敷きこまれた廊下が広がっている。
ひとつのドアの前で立ち止まった英二は、大きく息を吸い込み…
インターフォンのドアベルを力いっぱい押し続けた。

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン…

ドアのこちらからも、ベル音が部屋の中で
やかましく反響しているのが聞こえる。
やがて、苛立たしそうな足音がこちらへ近づいてきた。
ドアが勢いよく開かれる。
「うるせぇ!! ったく、どこのガキ…」
罵声の後半は、喉の奥にのみこまれた。

凍りついたようにこちらを見返す、エメラルド・グリーンの瞳。
すらりとした長身、光を宿す金色の髪。

「アッシュ」
名前を呼んだ。
それだけで、胸がいっぱいになった。
一年分だけ大人になった彼が、そこにいた。

彼の手が無意識のようにこちらへ伸ばされ、ふいに動きをとめる。
そのまま固くこぶしを握りこみ、アッシュは顔をそむけた。
「…帰れ」
「え?」
「帰れ!! なんでまたここへ来た?!」
悲鳴のような声。
驚いて見返す英二に、彼は抑えた声で言い直した。
「…もう二度とここへは来るな。いいな?」
英二の返事を待たず、目の前でバタンとドアが閉められた。
その間、およそ30秒。

「…一年ぶりの再会としては、あんまりじゃないかな?」
英二はぼそりとつぶやいた。
やがて気を取り直したように、もってきた紙袋の中身を
ごそごそとドアの前に並べ始める。
ソバの乾麺。納豆のパック。アポロチョコ。エンゼルパイ。天使のキャラメル…
ずらりと並べられたみやげ物の列は、
さながらあやしい宗教の供物のようだった。
英二はその出来映えに満足し、立ち上がった。
「アッシュ、おみやげここに置いていくよ! きっとまた来るからね!!」
ドアの向こうに大声でよびかけ、エレベーターホールへ戻る。

自分が去ったあと、彼がドアをあけると同時に、
あの品々は廊下のあちこちに散乱することだろう。
3分とたたずに降りてきた英二を見て驚くドアマンに、
英二はにっこりと笑いかけた。
とびきりの笑顔で。


「…で? これからどうするって?」
チャイナタウンの小さな中華料理屋。
その薄汚れたカウンターで、英二はアレックスとシンと並んで
トリソバをすすっていた。

「まあ、こういう展開は覚悟してたからさ、ちゃんとホテルもとってあるよ。
あ、すみません、ギョーザ追加」
「ホテル? そんなん、金がもたねぇだろ。オレんち泊まれよ」
「おまえんとこだと、あのあんちゃんにすぐバレないか?
なんだったら、うちにきてもいいんだぜ、英二」
なつかしい友人ふたりのあたたかい申し出に、
英二は胸が熱くなった。

「ありがとう、でも明日はマックスのところに行かなくちゃ。
アルバイトを紹介してもらう約束なんだ」
「おまえがバイト? 何やるんだ?」
「写真スタジオの雑用だって」
「へぇ、おまえ、まだ写真やってるのか」
「うん、今回はそれも目的のひとつなんだ。
ちゃんと本腰入れて、NYで写真の勉強をしようと思って」

そう、もう自分は決めたのだ。
どこでもないこの街で、彼のそばで、生きていくのだと。

━アッシュの顔、こわばってた。
本当にぼくに会いたくなかったんだ。

英二はくじけそうな心を奮い立たせるように、
運ばれてきたギョーザに勢い良くかぶりついた。

負けるもんか。

こんなの、とっくに慣れっこだ。
だてに、あの皮肉屋の意地っ張りとつきあってきたわけじゃない。
どんなにアッシュに拒まれても、逃げ帰ってなんかやらない。

心はいつでも、ひとつのところへ帰っていく。
どこにいても、何を見ても、胸は同じ言葉をくりかえしささやく。

きみと一緒にいたい。

誰といても、この傷のような痛みは消えない。
あたりまえだ。
どんな人も彼ではないのだから。
世界中でただひとり、彼だけがこんなに大切だ。

いつも未来について話すのを避けていたアッシュ。
英二はいつだって、彼に約束がしたかった。
明日のこと。来月のこと。来年の…
ずっと先のことを。

「すみません、チャーハンとエビチリください!」
「…おまえ、食いすぎじゃね?」
どこかヒキぎみの友人たちを尻目に、
英二はトリソバのスープを一滴も残さず飲みほした。
どん、と丼をカウンターにおく。

さあ、ここからは根比べだ。

英二は、ぜったいに負けない自信があった。

next >
スポンサーサイト

Posted on 2011/02/27 Sun. 17:07 [edit]

category: BANANA FISH(創作)

thread: 二次創作小説(版権もの  -  janre: アニメ・コミック

TB: --    CM: 2

27

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。