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Quiet Day

「BANANA FISH」二次元妄想小説サイト。

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※オリジナルな人の視点です

休日の街角で思いがけず彼を見かけて、
気づいたらあとを追っていた。

僕が知ってるのは、彼の撮る写真と…
それから、いくつかの噂。


宵闇せまる雑踏を、彼はなめらかにすり抜けていく。
着ているのは、黒いセーターとブラックジーンズ。
まるで、小さな黒猫みたいだ。

クラスが始まった当初から、彼は目立っていた。
それは、とても16歳以上には見えない容姿のせいもあったけど、
何より彼の写真の力によるものが大きかった。

決して、技術的にすぐれていたわけじゃない。
でも、彼の作品にはスタイルがあった。
そしてそれこそが、僕らアーティストの卵たちが
喉から手が出るほど欲していたものだった。

いちど、誰かが彼にたずねたことがある。
「エイジ、きみの写真のテーマは何だい?」と。

彼は真剣な顔でしばらく考えこみ、
やがて自分の考えをたどるように、ゆっくりと口をひらいた。
「きれいは汚い、汚いはきれい。
…たぶんぼくは、そういうものを撮りたいんだと思う」
「へえ、マクベスか! オレもシェイクスピアは好きだぜ」
身を乗り出すクラスメイトに、彼は困ったように笑った。
「そうじゃないよ。それを教えてくれたのは、ぼくの友人なんだ」

"My friend"

その単語を、彼はかすれた声で発音した。
まるで、どこかが痛むかのように。


彼のあとを追っているうちに、
気づけばメインストリートを大きくそれ、
薄暗い路地に入り込んでいた。

『まずいな…』
僕はいまさら周囲を見渡し、落ち着かない気分になった。

ダウンタウン。はきだめの街。

そこがどれだけ危険か、NYっ子なら誰だって知っている。
なのに、彼は迷いのない足どりで、
ガムや吐しゃ物がへばりついた道を進んでいく。

よう、英二。調子はどうだい?

あちこちから彼に声がかかり、
あるいはハンドサインが送られる。
それに彼は微笑んでうなずき、
ときにはサインを返す。

その物慣れた様子に、クラスで耳にした噂を思い出した。
『知ってるかい、あのこどもみたいな日本人…』
ひそめた声が耳元によみがえる。

そのとき、何かが背中に張り付いた気がした。
首のうしろに、とてもつめたくて硬い感触。

「動くんじゃねぇよ、このガキ」
ざらざらした声。
さっと全身の血の気がひいた。
ぐいっとベルトをつかまれ、後ろに引き寄せられる。

「大通りから、ずっとあいつのあとをつけてたよな。
目的はなんだ?」
「ひっ…」
首筋に、ちくりと痛みがはしった。
つうっと、なまあたたかいしずくがつたい落ちる。
鉄の匂い。血の。

頭の中をパニックが襲い、
気がついたら恥も外聞もなく叫びだしていた。
「…エ、エイジ…エイジーッ!!」
驚いたように、彼がさっとこちらを振り向くのが見えた。


「なんだ、英二の知り合いか。
やたらびくびくあとをつけてやがるから、オレはてっきり…」
「てっきり?」
「いや、おまえのストーカーかと」
「なんだよ、それ。ありえないだろ」
「わかんねぇぞ。今の世の中、ロリコン趣味は多いからな」
「忘れてるようだからいっとくけどね、
ぼくはきみより年上だよ、アレックス」

信じられない。
さっきまで僕にナイフを突きつけてた男と
彼が気さくに話している。
学校では見せたことのない、うちとけた笑みをみせて。

僕は、うらめしい気持ちでその男を見上げた。
背が高く、がっしりした体型。
少し長めの砂色の髪を、後ろでかるく束ねている。
その目はやさしく細められているけど、
つい今しがたまで、底冷えのする光を放っていたのを知ってる。

無意識に、手が刃先に傷つけられた首すじをなでていた。
気づいた彼が、首をのばしてのぞきこむ。
「ああ、血がついてる…。でも大丈夫、かすり傷だよ」

その慰めの言葉に、僕はかっとなった。
かすり傷? かすり傷だって?

「そりゃどうも。
何しろ、ナイフで脅されるなんてめったにない経験をしたものだから、
つい大げさに騒いじゃったよ」
つっけんどんな口調で吐き捨てた。
間近で、彼が目をみひらく。
その大きな黒い瞳に、顔をゆがめた僕がうつっていた。

傷つけてやりたい。

この水のように静かなすまし顔に石を投げ、
波紋が広がるのを見てみたい。
それはほとんど、欲望に近い衝動だった。

「ああ、でもきみには大したことじゃないかな?
何しろ、ダウンタウンでも幅をきかせてるギャングの一員らしいし。
いや、ボスのオンナなんだっけ?
ナイフも銃も、日常茶飯事…」
「てめぇっ!!」
「アレックス!」

腹の底から唸るような声を出して、
男が僕に殴りかかってきた。
僕は覚悟を決めて奥歯を噛みしめ、目をつぶった。

でも、いつまで待っても衝撃は襲ってこなかった。
目を開けると、彼が男の右腕に両手でしがみついていた。
拳のスピードをおさえきれなかったのか、
口もとにわずかな打撲のあと。

「エイジ、血が」
「だいじょうぶ。かすり傷だから」
言ったあと、意図せずさっきの台詞を繰り返したことに気づいたのか、
彼はほろ苦く笑った。
「無神経だったよね、ごめん」
「そんなこと…」

ほんとうに謝るべきなのは、僕のほうなのに。

「アレックス。
ぼくはこんなだし、悪いけど彼を通りまで送ってあげてくれないかな」
「…ああ」
頼むね、と彼は背の高い男に小さく笑いかけた。

「じゃあ、また。学校で」
彼はそっと僕に声をかけ、きびすを返した。
もう振り向きもせず。

━謝らせてもくれなかった。
優しくて、残酷な彼。

そのとき気づいた。
彼はいちども、僕の名前を呼ばなかった。
きっと彼は、僕の名前を知らない。
いや、覚えてないのだ。

僕はおかしくなった。
まったく、ひとりよがりもいいとこだ。

「…あいつ、そんな風に言われてんのか」
アレックスと呼ばれた男が、ぼそりと言う。
目を合わすこともできず、僕はうつむいた。
「面白半分に噂してる奴らが、いるんだよ」

ほんとうは、誰だって気づいてる。
彼の棲む水は、きっと清浄だ。
でも。

「彼、ここに住んでるんだよね。このダウンタウンに」
「ああ…このあたりは家賃が安いからな」

可哀想に、あいつは貧乏留学生なんだ。知ってんだろ?
はぐらかすような物言い。

「いくら安くても、まともな学生が住むところじゃないだろ、ここは」
「おい、言ってくれるよな」
「言うさ」

僕らはにらみあった。
先に目をそらしたのは、相手のほうだった。

「…それに、彼の写真」
「写真?」
「彼が撮る写真は、ふつう入り込めないような場所ばかりだ」
ここや、ハーレム、それにチャイナタウンもあっただろうか?

「どこも、僕らなら足を踏み入れたとたん、
身ぐるみはがれて放り出されるのがおちなのに、彼は」
「おい、そりゃ…」
「現に、僕は叩き出されようとしてる。そうだろ?
なのに、彼はフリーパスだ。
…誰だって、何かあるんじゃないかって思いたくなるさ」

一気にまくしたてたあと、口の中にいやな苦味が残った。
僕が吐き出したのは、ゲスな勘ぐりだと
今まで自分自身が軽蔑していたはずの噂だった。

アレックスという男はイライラと髪をかきあげ、
不器用に口を開いた。

「あいつは、オレたちのダチなんだ…ただそれだけだ」
「へえ? ストリートギャングと貧乏留学生がお友だち?」
「ああ、そうだよ!」
彼は声を荒げた。

「オレらなんかとダチってだけで、
おまえらにはうさんくさいのかもしれねぇけどな。
…あいつほどまともな奴は、他にいねぇよ」

噛みしめるようなことば。

彼は息をつき、何かを振り切るように首を振った。
「よそう。オレはあいつのダチに喧嘩を売りたいわけじゃない」
「友だち?」

笑いだしたくなった。
彼は、僕の名前すら覚えていなかったのに。

「ああ。あいつはおまえみたいな奴らとつきあって、
そうして、世の中に出て行くんだ」
男は、視線を真っ直ぐ僕に向けた。

「だから、頼む。
おまえがあいつを少しでも好いているなら、
どうか、あいつの味方になってやってくれ」

Please(どうか).

その真摯なひびきに、彼への真情が透けて見え、
僕は何も言えなくなった。

どうして彼はああなんだろう。
途方にくれるように、あの静かな横顔を思う。

いつも微笑んでいて、
そのくちびるはやさしい言葉を語るけど、
本気のことは何もいってくれない。

まるで、心のありったけは誰かに向けて語りつくし、
今はもう何も残されていないかのようだった。

本当は彼に話しかけ、友だちになりたかったのに。
それが無理でも、せめてきみの写真が好きだと。

伝えたかった何もかも宙に浮いたまま、
もう取り戻せない。

恥ずかしかった。
このまま地面にとけこみ、消えてしまいたかった。

傍らの男がただ黙ってそこにいてくれるのがありがたくて、
何だか泣きたくなった。

夜だった。

END


黒・白・黄色のギャング団に顔が利く童顔の留学生って、
さぞ浮いてたろうと思うのです…

Posted on 2010/11/14 Sun. 17:27 [edit]

category: BANANA FISH(創作)

thread: 二次創作小説(版権もの  -  janre: アニメ・コミック

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コメント

素晴しかったです! 

いつも素敵なお話ばかりですが、この『 彼 』もとても素晴しかったです!
多くを描写しなくても、登場人物のちょっとした仕草や会話から、英二を取り巻く“ 今 ” と、周囲の人々の感情が伺えて……
感動しました。
それに私も、第三者の目から見たアッシュや英二っていうのが好きな方なので (^^)

クラスメイトの英二に対する思いは、何か分かるような気がしました。
むか~しの事ですが、私もデザイン系の勉強をした事があるので。
その人の作品に対する気持ちと、その人自身に対する気持ち。
尊敬してたり、好きだったりすればするほど、場合によっては複雑になっちゃう事もあるんですよね (^^;)
胸にくるものがあるストーリーでした。

そして、東雲さんのお書きになるアレックスの、英二に対する思いが優しくて真摯で少し複雑ですっごく好きです!!

URL | 芙月 #YVWDSDMY | 2010/11/14 23:35 | edit

Re: 素晴しかったです! 

芙月さん、こんばんは~
いつもおやさしい感想、ほんとにありがとうございます(T_T)
今回、ネタだけは『光の庭』を読んだときからあたためていたのですが
名無しくんの語りがミョーにキモくなったのと、
英二がただの無神経な奴になったのとで、ムダにあたためたわりに悔いが…
む、無念です…!

ところで、デザインを学ばれていたんですね!
あの数々の美麗イラストからして、そんな気がしておりましたとも!!
中学のとき、すべての課題を期限までに提出したにもかかわらず、
美術で2をくらったことがあるワタクシ。
絵の才能があるかたは、今もはるかにまぶしいあこがれの存在です~

URL | 東雲 #- | 2010/11/15 22:13 | edit

新鮮でした! 

こんばんは!

今回のお話も、とてもよかったです。
第三者の視点が、すごく新鮮に感じました。

アッシュの死後、英二はきっとあんな感じだったんだろうな、と思います。そして、どんな危ない場所でも、フリーパスだったんでしょうね。

英二を守っているアレックスの姿や言葉にも、感じるものがありました。

英二のクラスメートの心情も、とても見事に書かれていました。

いやあ、よかったです。毎度のことですが、今回もまた、感動しました。

URL | yukino #- | 2010/11/16 00:37 | edit

アレックス! 

東雲さん今日は。
またまた素敵なSSですね。
第三者視点、とても好きです。
東雲さんのお陰で、アレックス→英二が好きに
拍車がかかって仕方がありません。(笑)
英二ってみんなに大事にされてて羨ましいですよね~。
東雲さんの書くアレックスは本当に格好良いですv

URL | hinata #mQop/nM. | 2010/11/16 16:16 | edit

Re: 新鮮でした! 

yukinoさん、こんばんは!
感想をいただきありがとうございます(^^)

『彼』はストリートギャングになりようもなく、
かといって昔のように一般ピープルの中にとけこむこともなく、
周囲から浮きまくってるのにそれを気にする余裕もない英二、
というのを書いてみたかったんです。
でも、どうにも力が足りず、英二は無神経だわ、
語り手は「こんにちは名無しです」としか言いようがなくなり…ううう

それでも、少しでもyukinoさんに楽しんでいただけたなら、
本望でございますとも!
あああ、見捨てられないように精進します~

URL | 東雲 #- | 2010/11/16 23:40 | edit

Re: アレックス! 

いやー、hinataさんにアレックスをほめていただけるなんて!

じつはこの話、先日hinataさんのサイトにあがっていた
アレックスのかっちょいいショットにやられてしまい、
名無しくんに殴りかかる役回りを当初考えてたボーンズから
アレックスへと変更してしまいました^^;
ほんとは「歯欠けの間抜けそうなチビがいきなり凶暴な顔で」とか
書こうと思ってたのですが。わはは。

hinataさんのかく本命ふたり(アッシュ×英二)も大好きですが、
間男・アレックスもたまらなく好きです!
ぜひまた、報われない可哀想な彼を描いてあげてくださいね。

URL | 東雲 #- | 2010/11/16 23:41 | edit

 

涙が出ました…

URL |  #- | 2013/04/06 13:56 | edit

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