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Quiet Day

「BANANA FISH」二次元妄想小説サイト。

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終わりなき夜に -英二編- 

あたたかなレストランを出ると、
冷えきった空気が体を包み込んだ。

NYの街は、クリスマスのためのイルミネーションで派手に着飾っている。
このまぶしさ。
まるで、スパンコールを散りばめたドレスだ。

「ごちそうさま。すごくおいしかった」
「おう。これでおまえに、も少し肉がついてくれりゃいいんだけどな」
コートをはおったマックスは、英二の全身をため息まじりに見やった。

「そうだ、チャーリー坊やの結婚式の招待状、きたか?」
「あ、うん、おとといきてた。
とうとうマーディアさんと結婚するんだね」
「ああ。おまえ、いくよな?」
「うん。そのつもり」
そうか、とマックスは嬉しそうに笑った。

最後にチャーリーと会ったのは、NY市警の中だった。
覚えている。
あのとき、カップはおどろくほど大きな音をたてて割れた。

「じゃあな」
マックスは英二をかるく抱きしめると、滅多にしないことをした。
英二の頬に、そっとキスをしたのだ。
眠る前のこどもにするような優しいキス。

「…僕はマイケルじゃないよ、マックス」
「同じだよ、俺には」
彼は怒ったようにいった。
「おまえもあいつと同じ、目が離せないちびすけだ」
「ひどいな」
英二は苦笑した。

マックスは手をあげて、タクシーをつかまえた。
大きな体をかがめ、
クリスマスプレゼントがつまった紙袋と一緒に乗り込む。

「じゃあ、クリスマスは必ずうちに来いよ。じゃないとジェシカに仕留められるぞ」
「必ずいくよ、心配しないで」
英二は笑って手を振り、
タクシーが去っていくのを見送った。
やがて冷気にぶるっと身をふるわせ、
マンハッタンの雑踏の中にするりと身をすべりこませる。

アッシュが逝って、はじめての冬がこようとしていた。


部屋に帰り着いたのは、
いつもよりずいぶんと早い時間だった。
これなら、もう少しイルミネーションを眺めながら
遠回りして戻ればよかった。
バイトや学校に追われる毎日の中で、
いつも最短距離をえらんで移動する癖がついてしまっていた。

NYで過ごした二年のあいだは、
観光客程度にしかこの街を知らなかった。
彼は、限られた狭い世界の中で生きていたのだ。
でも今は、この街の小さな路地裏にいたるまで知りつくしている。

NYに戻ったその日から、彼は街を駆けずり回った。
伊部やマックスが必死に引き止めようとしても、
英二は彼らを振り切り、街へ飛び出していった。

彼は、あの古いSF小説に出てくる猫と
同じ信念にとりつかれていた。
扉を開け続ければ、
そのどれかが夏につながっていると信じていた猫。
英二は、この街の道のどこかが
金色の髪の友人に通じていると固く信じていた。

アッシュがむざむざと殺されるわけがない。
きっとどこかで、自分がたどりつくのを待っている。
だから、早く見つけなければ。
早く。

伊部が英二をジェンキンズ警部のもとに連れていったのは、
それからまもなくのことだった。


「待たせて悪いね。いま、警部がくるから」
チャーリーは盛んに謝りながら、
ふたりにコーヒーを入れてくれた。
人の良い彼。
英二は礼をいってカップを受け取り、両手で抱え込んだ。
そのぬくもりにしがみつくように。

「…これが、アッシュの死亡報告書だよ」
差し出された書類を、英二は手に取ろうとしなかった。
チャーリーはためらったあと、それをテーブルの上にそっと置いた。
貼られた写真が否応なく目に飛び込んでくる。
知らず、英二の目はその画像に釘付けになった。

NY市警の黒いビニール製の死体袋に入れられた彼。
解剖台の上に横たえられた彼。
死体置き場のロッカーに収められようとしている彼。

それは間違いなくアッシュで、また、彼ではなかった。
あのたぐいまれな命は、そこから飛び去っていた。

文章の断片が目に入る。
白人。男性。18歳。
死因は出血多量による失血死。
死亡推定時刻は14時から15時の間━

意味のない言葉の羅列。
それらは目に入っても、英二の心には届かなかった。
彼の心は、すでに砕けていた。

チャーリーがそっと言った。
「可哀想に、アッシュ。なんてみじめな人生だったんだ」

その一言が、英二を激昂させた。

気づいたら、握っていたカップを叩き落していた。
カップは澄んだ高い音をたてて割れた。
コーヒーが飛び散り、床に黒い染みをつくった。

「アッシュは、ちっともみじめなんかじゃなかった!!」
振り絞るように英二は叫んだ。

「あの生がみじめだったなんて、誰にもいわせない!
誰にも、誰にも、誰にもだ!!」
「英ちゃん!」

伊部に抑えられ、ジェンキンズ警部がかけつけても、
英二は叫び続けていた。
信じられないほどの怒りで、頭が煮えた。
のどが、心臓が、焼けつくようだった。

誰にも、誰にも、誰にも。

始めたのと同じように唐突に、英二は静かになった。
床に、粉々に砕けたカップのかけらが散らばっている。
それを見下ろしながら、全身の力が抜けていくのを感じた。

ずっと目の前の事実を受け入れられず、あがいていた。
でも本当はとっくにわかっていたのかもしれない。
アッシュは、もうこの世にはいない。
いないのだ。

警部が低い声で謝罪するのが、どこか遠くで聞こえた。
チャーリーは青ざめ、
後悔をたたえた目でそこに立ち尽くしていた。

気の毒なチャーリー。

あのときからずっと、
英二と世界のあいだには薄いカーテンがおりたようだった。
それは、カメラのファインダーごしに被写体を見るのに
とてもよく似ていた。
ただ、カップが指先を離れた瞬間の、
しびれるような熱さだけが忘れられなかった。


英二はひたいを窓ガラスにおしあてた。
つめたい感触が、肌に心地いい。
日がほとんどささないこの部屋は、
夜になると向かいのバーのネオンサインがまたたいて、
まぶしいほど明るい。

彼は目を閉じた。
暗闇がまぶたの裏に広がる。
その闇はあまりに深く、
今にも世界を塗りつぶしてしまいそうだった。

忘れえぬ人の姿を心に描く。
あのひらめく緑の瞳、
皮肉っぽい響きの笑い声を。

アッシュ。

手を固く握りしめた。
指の関節が白く浮かぶほど。

今では、彼に何がおきたのかわかっている。
この胸の痛みの理由もわかっているし、
もうあきらめなくてはいけないこともわかっている。

それでも今なお、彼の不在を受け入れることはできなかった。
何もかも理解できず、
あてもなくNYの街をさまよっていた頃と同じように。

不思議だ。
光の中で笑いあっていたころの彼を、
暗闇の中でしか思い描くことができないなんて。

英二は小さく浅い呼吸を繰り返した。
その目は乾いたまま、涙がうかぶことはない。
アッシュが、彼の涙も連れて行ってしまったかのように。

多くの日本人と同じように、
英二はキリスト教が説く天国の花園を信じることはできなかった。
でも、あの美しく激しい生が
あとかたもなく消えてしまったなどと認めることもできない。

それなら、彼はいまどこにいるのだろう。

ミルクと蜂蜜の流れる美しい地を信じることができたなら、
どんなによかったか。

夜が終わらない。

目をあけると、部屋の窓に
絶望をたたえた孤独な顔がうつっていた。
目をそむけることもできず、
彼はその影と向かいあう。

こうして眠れない夜を幾度もやり過ごし、
新しい朝を迎えるたびに、
この胸の痛みも少しずつ薄れていくのだろうか。
きょうが無理でも明日、
明日もだめならその次に。

でももう、アッシュは明日へは行かない。
彼が大人になることは、決してないのだ。

英二は両手で顔をおおった。

戻りたい。

あの安ホテル、イーストサイドのアパート、
どこだっていい。

あの、祈るように彼の帰りを待ち続けた日々。

銃と暴力に追われ、逃げ隠れた毎日がいとおしく、
こがれるほどに懐しかった。

夜は明けない。

夜明けと同じ名前をもつ人は、目の前から消えてしまった。
もう二度と会えない。

あとには、どこまでも続く夜が横たわるだけだった。

END


愛をもってしても、英二視点の話はとてつもなく難しかったです…。
書いてるあいだのBGMは、山崎まさよしのあの曲でした。

Posted on 2010/12/05 Sun. 09:08 [edit]

category: BANANA FISH(創作)

thread: 二次創作小説(版権もの  -  janre: アニメ・コミック

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05

コメント

きっと、こんな風だったと思います。 

アッシュを失った後の英二は、きっとこんな風だったんだろうなーと思います。
私も、アッシュを失った後、「光の庭」に行き着くまでの英二の話をずっと頭の中で考えているんですが、重すぎて、まだ書くことができません。
東雲さんは、いつものことながら、とても見事に英二の思いを表現されていますね。
ところで、山崎まさよしの歌って、“one more time, one more chance”ですか?

あ、うちのツインズも、何かいいたいそうです。

BA1号 「誰にも、誰にも、誰にも、と3回繰り返すところがよかったです。あと、ぼくも英二おにいちゃんと一緒に、沖縄に行きたいです」

BA2号 「マックスが英二にキスするところが、いけないと思います。お前もか、マックス!」

どうも失礼しました・・・

URL | yukino #- | 2010/12/06 00:42 | edit

Re: きっと、こんな風だったと思います。 

おおお、また愛しのベイビーズからコメントが!
でもなんか、前回のコメントとかぶってるわ!!
というか、かぶってるのはこのオレか…orz

マ、マックスおじちゃんは父性愛の塊だから!下心ないから!!
きっとかつてはクリスおにいちゃんにもうっかりキスして、
秒殺されたことでしょう…

> ところで、山崎まさよしの歌って、“one more time, one more chance”ですか?

はいー、その通りです!
ずっとお気に入りソングだったのですが、
今回のBANANA大回転でこの話が浮かんだときから
テーマソングのように頭の中で鳴ってました。

URL | 東雲 #- | 2010/12/07 20:45 | edit

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