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Quiet Day

「BANANA FISH」二次元妄想小説サイト。

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蒼い夜、白い街で 

「じゃあな、おっさん。また連絡する」

バーカウンターの席を立ったアッシュは、
何気なく奥を見やり、そのまま凍りついた。

あいつだ。
間違いない、あいつだ。
あの男だ。

バーの奥のレストランでは誰かが誕生日を迎えたらしく、
ロウソクが林立したケーキをボーイがうやうやしくテープルへ置くところだった。
ハッピーバースデーの合唱が流れるなか、
満面の笑みでケーキを見つめる初老の男に見覚えがあった。

男が息をためて、ふうっと一気にロウソクの火を吹き消す。
わっと歓声があがり、隣に座った上品な婦人がやさしく頬にキスした。
きっと男の妻だろう。
テーブルには、若いカップルと小さな女の子も同席している。

やさしげな妻と、子供夫婦と孫娘に囲まれた、文句なしのバースデー。
アッシュは信じられない思いで、その光景を凝視した。

その男は、アッシュが「クラブ・コッド」でとらされた初めての、
そして最悪の客だった。


たしかあの男は、メンバーから紹介を受けた初見の客だった。
当時からおだやかな紳士然とした外見で、
おびえきっていた彼にあてがうにはちょうどいいと
店側が判断したのだろう。
だがあいつは、紳士の皮をかぶった正真正銘のけだものだった。

部屋に入るなり性急にのしかかろうとする男におびえ、
幼いアッシュは弱々しく相手の胸を押し返した。
それがまずかった。

思わぬ反抗に激怒した男は、彼を手ひどく殴りつけ、
自らのベルトで小さな体をめったうちにした。
やわらかな皮膚が破れ、血が流れても、
男の暴力はとまらなかった。
異変を察知した店のものが止めに入らなければ、
きっと殺されていただろう。
ただ男を押しやるしぐさを見せた、それだけのために。

アッシュは目をつぶった。
いまもありありと思い出せる。
あの男の血走った眼つきも、
背中をつたって流れた血の生暖かい感触も。

「おい、なんて顔色だ。大丈夫か?」
マックスの声に、はっと我にかえった。
いったいどれだけのあいだ、馬鹿みたいにここへ立ちつくしていたのだろう。

「ああ…なんでもない」
アッシュは頭を振った。
「あまり寝てないだけだ。少し頭がぼうっとしてた」
「それだけか? ならいいが…」
「余計な心配すんなよ、ハゲるぜおっさん」
アッシュは皮肉っぽく笑ってみせた。

「大丈夫だ。今日はもう、家に帰って休む」
「それがいい。しかし珍しいな、タフなおまえが」
まだ心配そうなマックスに背中ごしにひらりと手を振って、
アッシュはその店を後にした。


NYの街は、いつになく静まり返っていた。
この一週間というもの、例年にないほど雪が降り続き、
この街を白く包みこんでしまったのだ。
連日、気温は氷点下まで下がっている。
だがそのきびしい寒さが、いまのアッシュにはありがたかった。

向き合うなら、このどうしようもない寒さのほうがいい。
自分のみじめな過去などではなく。
アッシュは白く凍った息を吐いた。

たしかに以前の自分は、無力なただのガキだった。
それでも、オレは生きのびた。
自分の力で。

これからもなんとか切り抜け、生き抜いてみせる。
何ひとつ持たず、ただ欲望を吐き出すためのティッシュとして
存在していたころに戻りはしない。
決して。

そう言い聞かせても、骨を食むような寒気を振り払うことはできなかった。
それはNYの厳しい冬とは、まったく別のところからくるものだった。

家に帰る。

その考えにしがみつくように、
アッシュはふるえる足を踏み出した。

そうだ、早く家に帰ろう。
家には英二が待っている。
きょうは早めに帰ると約束した。
きっと彼は、ふたりぶんの夕食を用意して待っているだろう。

“Home”

グリフが去ってからずっと長いあいだ、そう呼べる場所はなかった。
いま、あのアパートを家と呼ぶことができるのは、
彼を待っていてくれる人がいるからだ。

あの夜。
はじめて自分の弱さを彼の前にさらけ出した夜、
英二は何があっても自分は味方だと告げ、
ずっとそばにいると約束した。
ごく無造作に。
完全な正気で。

あのとき、アッシュは理解した。
彼は自分の弱さを知っても、
それを軽蔑したり、利用したりはしない。
彼は、そういう人間ではないのだ。

アッシュは足を早めた。
いまは一刻も早く、あの笑顔が見たかった。
自分の生きるこの世界に、
善良だったり、正しかったりするものは、
他に何ひとつないのだから。


積もった雪に足をとられ、
イーストサイドにたどり着くまで思ったより時間がかかった。
やっとアパートが見えてきたとき、どこからか声がした。
「…リス。クリース!!」

それが自分の偽名だと気づくまでに、一瞬間があいた。
見ると、アパートの玄関前に英二が立ち、こちらへ手を振っている。
後ろで、ドアマンがにこにことそれを見守っていた。

英二の足元には、スーパーの袋が置かれている。
きっと店の中からアッシュの姿を見つけ、
外まで迎えに出てきたのだろう。

「馬鹿」
アッシュはしゃがれた声でつぶやいた。
「バカだな、そんな薄着で。風邪ひくぞ」
嵐のように波立っていた心が、嘘のように凪いでいくのを感じた。

なんて簡単なんだ。
アッシュは思わず自嘲した。
あの小柄な姿に、こうもたやすくほだされるなんて。

それでもその姿を瞳に映すのが、口惜しいほどに幸せだ。
憎らしくなるほど屈託のない笑みも、
招くように振られている手のひらも。

このまま彫像のようにここに立ちつくして、
ずっとながめていたかった。

道の向こうに英二がいる。
笑って、大きく手を振っている。
彼の親友、彼の家族、彼のすべてが。
無造作な約束を永遠の誓約のように、今も忠実に守り続けて。

やっと見つけた。
そう思った。
やっとたどり着いた。

この月も星もない蒼ざめた夜、街は淡い雪の光をまとっている。
すべてがまぶしいほど白く、清らかだ。
この世界は残酷で、そのくせ時おりなんて美しいんだろう。

信号が変わり、車の流れが止まった。
アッシュはゆっくりと歩きだす。

彼の笑顔が待つほうへ。

光さすほうへと。

END


日本もかなり寒い日が続いてますね。
あまりぬくもる話ではなく、スミマセンです…(あ、いつも?)

Posted on 2011/01/31 Mon. 00:17 [edit]

category: BANANA FISH(創作)

thread: 二次創作小説(版権もの  -  janre: アニメ・コミック

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コメント

美しい文章にうっとりです・・・ 

アッシュが、かつてのクラブ・コッドでの客とすれ違うことは、こんな風に起こりえることですよね。

そんなつらい思いも、癒してくれるのはやはり英二だけなのでしょう。

いつもながらの東雲さんの卓越した表現に、うっとりです。

バナナに飢えている私に、栄養を注入していただき、ありがとうございました!

URL | yukino #- | 2011/02/02 00:32 | edit

Re: 美しい文章にうっとりです・・・ 

わー、yukinoさん、いらっしゃいませ~
いつも感想をいただきありがとうございます、ほんとに励みになります!

最近、私もBANANAに飢えております!
やはりyukinoさんのブログは、私のBANANA愛の支え&目標なんだなーと
しみじみ思う今日この頃ですわ…。

お忙しいなか、ご訪問いただきありがとうございます。
1月は仕事の異動であわただしく、どうもペースがつかめなかったのですが
2月はも少しブログに力を入れたいと思ってますんで、
ぜひまたお立ち寄りくださいね~

URL | 東雲 #- | 2011/02/03 00:06 | edit

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