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Quiet Day

「BANANA FISH」二次元妄想小説サイト。

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甘い爆弾 -後編- 

その日、アッシュの機嫌は最悪だった。

それは降りしきる雪のせいでもなく、
悪天候の中、わざわざ出かけた図書館が
雪のため早々に閉館になったせいでもなかった。

彼は行きがけに、通りでタクシーをつかまえる英二を見たのだ。
正確には彼と、彼の友人を。

その男は英二のルームメイトで、このところ彼といるのをよく見かけた。
やさしげな面立ちの、茶色い巻き毛の青年。
そいつと英二は、トランクをタクシーに積みながら、楽しそうに笑いあっていた。
たぶん、この休暇の相談でもしているのだろう。
アッシュは道を挟んだこちら側から、そんなふたりを見ていた。

NYに戻ってきた英二は、何度もアッシュをたずねてきたが、
アッシュは徹底的に彼を拒絶し続けた。
彼の脳裏には、銃弾の前に倒れた英二の姿が
まだどうしようもなく焼きついていた。

自分は疫病神だ。
関わる人間に、災厄しかもたらさない。
たったひとりの親友と二度と会えない苦しさくらい、
彼の命に比べたらどれほどのものだろう?

だから、これでいい。
あいつは新しい生活を始めたんだ。
そう自分を納得させようとしても、
心はどうしようもなく彼のもとへ帰っていった。

あいつは冬の休暇を、あの巻き毛野郎の家で過ごすんだろうか。
いや。
アッシュはふいに別の可能性に気づいた。
もしかしたら彼らはいっしょに日本へ…
英二の家へ行くのかもしれない。

その考えは、思いがけないほどアッシュの心を切りつけた。
英二を突っぱね続けたのは自分だ。
裏切られたような気分になるのは、このさい間違ってる。
それでもあれは、自分と彼だけの大切な約束だった。

━何もかも終わったら、いっしょに日本へ行こう━

そのとき、アッシュの心をよぎったのは自分の部屋だった。
豪華で、整然とした、誰もいない部屋。
自分はそこへ帰るのだ。
待つ人のいない、誰かを迎えようともしない、からっぽな部屋に。

アッシュは立ち止まった。
もう一歩も足を踏み出せそうもなかった。

おまえと共に生きられない。
おまえなしでも生きられない。

雪が降りやまない。
風も強まるばかりだ。
もしかしてこれは、吹雪ってヤツじゃないのか?

そのとき、人っこひとりいない道の向こう側から、歩いてくる人影があった。
白いダウンジャケットにぐるぐるとマフラーをまきつけ、
ちょっと見、ちいさなスノーマンのようだった。
この大雪を楽しんでるのか、さくさくと雪をふみしめる足元が
妙にリズミカルにはずんでいる。

物好きな奴。

斜めに降りしきる雪のすきまから、
その踊るような人影が英二だと気づいたのは、
ふたりの距離が10メートルほどまで近づいたときだった。

やがて英二がふと顔を上げ、アッシュに気づく。
ふたりは同時に立ち止まった。
互いに触れあうこともできない、ぽっかりとあいた空間をはさんで。

「…おまえ、友だちと旅行へ行ったんじゃなかったのか」
「え、なんで?」
英二はきょとんとした。
「…ああ、もしかしてタクシーに乗るところ見たの?」
あれは見送り。
英二はさらりと言った。

「雪で飛行機が遅れそうだから、見送りがてら
空港での時間つぶしにつきあってくれって頼まれたんだ」
「…ずいぶん甘えた野郎だな」
「じっさい、5時間も遅れたんだよ?
それに、ランチもお茶もおごってもらって、ぼくはちょっと得したな」
屈託なくいうと、英二は首をかしげた。
「…きょうは、逃げないんだね」

アッシュは答えなかった。
でも、その場を立ち去ろうともしなかった。
この世でたったひとり、心から愛している人から逃げ回るのが、
いいかげん馬鹿馬鹿しくなっていたのだ。

ふたりは距離を保ったまま、
相手をうかがうように、ただそこに立っていた。

何を言おうか。
アッシュはぼんやり思った。
英二に伝えなければいけないことが、たくさんあったような気がする。

ただ共に生きるということ。
それが自分にはどんなに困難で、難しい仕事なのかを言おうか?
それとも、あの病室のベットに横たわったおまえの白い、
白すぎる顔を忘れることができないと?

でも、口をついて出たのは別の台詞だった。

「おまえは、いつかきっと、後悔するときがくる」
英二がわずかに目をみひらいた。
「オレの人生に染みついた血の臭いに
息がつまりそうになる日が、きっとくる」

アッシュの意思に関係なく、言葉は勝手にあふれ出た。
それは間違いなく、彼の心の奥底に眠っていた本音だったのだ。

「英二、オレは…そのときがこわい。こわいんだ」
それはおまえにとっての破滅ではなく、
オレにとっての破滅だから。

英二は何も言わなかった。
ただ黙って、こちらを見ていた。
ぐるぐる巻きのマフラーで半ば隠された顔からは、
その表情をうかがうことはできない。

やがて彼は手をのばすと、柵につもった雪をひと掴み取り、
手遊びをするように両手でまるめた。

「!!」
アッシュは反射的に体をよけた。
英二がいきなり素早いモーションで、彼に雪玉を投げつけたのだ。
よけたところへ、さらにもう一球。
こちらは頬をかすめるぎりぎりのところをとんでいった。

「よけるなよ! 当たらないだろ!」
「よけるだろ、普通! なんだってんだ、いったい?!」
「なんでだって?!」

英二は両手で雪をひっつかむと、雪玉に丸めることもせずに
めちゃくちゃに腕をふり回してこちらへ投げつけてきた。

「っ…おい、英二!」
「ぼくは地球を半周して、ここへ戻ってきたんだぞ!!」
英二が怒鳴った。
「母さんには泣かれた!
妹には、二度と帰ってくるなって言われた!
なのにきみは、そんな離れたところから
ぼくが後悔するのがこわいなんて言ってる!!」

アッシュは一瞬立ちすくんだ。
その期を逃さずに投げられた雪のかたまりが、
彼の顔を正確にヒットする。
「…っぷ」
口に入ってしまった雪を吐き出そうとする間も許さず、
英二が次から次へと雪球を投げつけてくる。
これはたまらない。

「ああ畜生、いいかげんにしろよ! こっちも本気だすぞ?!」
「出せよ! 本気になればいいだろ!!」
英二が叫びかえす。
あの大きな瞳が、怒りで燃えるようにきらめいていた。

つかの間、ふたりはにらみあった。
次の瞬間、猛烈な勢いで、ふたりは雪玉を投げはじめた。
白い雪がさながら爆弾のように、猛スピードでふたりのあいだを飛び交う。

「このっ!」
「ぶっ…顔ばかり狙うなよ、きたねぇぞ!」

英二は小柄なぶん、的が小さい。
そのうえ、彼はまったく容赦なかった。
むしろアッシュは、その長身とためらいがあだになり、
圧倒的な反射神経をもちながらも、苦戦していた。

「あっ、まず…」
英二があせったように口走る。
アッシュがぎりぎりでかわした雪玉が、
ゆっくりとうしろから歩いてきた人影にあたったのだ。

その長身の老人は、わずかに顔をしかめると
胸元で砕けた雪を上品な手つきで払った。
「やあ、この寒いのに元気がいいね、ボーイズ。
でも歩道で雪合戦はよくないよ。
どうせやるなら、公園にでも行きなさい」
「うるせぇ、じじい!」
この窮状が、見てわからないか。

「アッシュ!! お年寄りになんてこと言うんだ!」
「って、おまえ…」
アッシュは脱力した。
いったい、誰のせいだと…!

「すみません、ミスター。ちょっと友人とふざけてたんです」
英二はにっこり微笑むと、かるく一礼した。
その笑顔と礼儀正しいしぐさに、老人の心がとろかされるのが見えるようだった。

「いや、気にしなくていいよ。
若い人たちには、この大雪も面白いアクシデントなんだな。
年を取ると、つい忘れてしまう」

風邪をひかないように、楽しみなさい。
そう声をかけ、老人は帽子のひさしに優雅に手をやり、立ち去っていった。
残されたふたりは毒気を抜かれ、顔を見合わせる。

「あーあ、服のなかまでぐっしゃぐしゃ…」
「…それはオレの台詞だ。おまえ、容赦なくやりやがって」
「雪合戦で手かげんなんてできないよ。
それにぼくは、本気で怒ってたんだし」
あっさりという英二の顔に、もう怒りの色はなかった。

「きみは、自分が思ってることをいったよね。
だから、ぼくも言うよ」
思わず身構えるアッシュに、英二は淡々とした口調で告げた。
「もう、ぼくを遠ざけないでほしいんだ。
きみのほうから離れていこうとしないで」

彼は言った。
とても静かに。

「きみが好きだよ、アッシュ。きみがいないと、さびしいよ」

その言葉に、彼の心の中で何かが屈した。
アッシュはくちびるを噛みしめ、空を仰いだ。

降参だ。
お手上げだ。

向けられたのが怒りや失望ならば、きっと自分は対処できた。
でもこの無防備なまでの愛情を前に、
彼はなすすべをもたなかった。そう、何ひとつ。

「帰ろう、アッシュ」
雪で濡れてしまった手袋を外し、英二は右手を差し出した。
「ここは寒いよ。ぼくはもうへとへとだ。
きみもそうなら…一緒に帰ろう」

差し伸べられた手。
そのとき、雪も街も立ち消え、世界は彼と自分だけになった。

この日を、いつか後悔するのかもしれない。

彼を傷つけ、自分も傷つき、
おそれていたように、いつかお互いを失う日がくるかもしれない。
それでも、いま、差し出されたこの手を取らずにいられない。

アッシュは、そっと英二の手を握った。
小さな手だ。
とても、強い手だ。

あのころ、どんな最悪なことがあっても、
この手があれば切り抜けられるような気がしてた。
自分の人生にさえ光や愛はあると
心から信じさせてくれた、あたたかい手だった。

「…腹減った。なんか食わせてくれよ」

その言葉に、英二はパッと陽がさしこむように笑った。
それは、あの病院での別れ以来はじめてみせた
彼の心からの笑顔だった。

「じゃあ、ぼくの部屋においでよ! ビーフシチューがあるんだ」
「シチューか、うまそうだな」
「うん、山ほど煮込んであるよ。
ほら、休暇中はずっとひとりで部屋にこもる予定だったからさ」
それを聞いて、アッシュの胸はかすかに痛んだ。
彼はここへ戻ってくるために、大切な家族を切り離してきたのだ。

その疼きに気づいたかのように、
英二がいたずらっぽい目でこちらをのぞきこんだ。
「シチューを食べさせてあげるお礼に、
今度こそ一緒に日本へきてくれるよね、アッシュ」
「え?」
「大いに期待してるからね。
きみがその魅力を発揮して、母さんと妹をうまくまるめこんでくれるのをさ」
「…まかせとけ。
おまえの代わりに、ドゲザでもハラキリでも何でもしてやるよ」
「きみ、ほんとに伊部さんから間違った日本文化を吹き込まれてるよね」

あきれた顔をしてみせながら、英二の目はやさしく和んでいる。
思い返せば、彼はいつもアッシュをこんな目で見ていた。
まるで、何かとても良いものを…大切なものを見つめるように。

その眼差しの前で、今こそアッシュは自由だった。
どこにだって行けるし、何だってやれる。
迷いも孤独も、あの白い爆弾に吹きとばされた。
英二が投げた、甘い爆弾。
すべて粉々に砕け散り、残されたのはひとつの覚悟だ。

罪も、痛みも、後悔も、
何もかも引き受けて、生きる。
彼と生きる。

ふたりは笑いながら、横殴りの雪が降る街を駆け出した。
手をつないだ腕をいっぱいに伸ばして。

それははばたく羽のようで、
地上に舞い降りる鳥の旋回のようで、
降りしきる雪をさらって、軽やかに吹き抜けていった。

つもった雪のうえに、ふたりの足跡がどこまでも続いていく。
やがて雪がその跡を吹き消し、うめつくしてゆくころ、
NYの街にそっとやさしく夜の帳が下りた。

END

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原作のすきまを妄想でうめる、喪黒福造的なスタンスでやってきた私ですが、
初のパラレルはとても楽しかったです!
あ、英二のルームメイトは、『彼』に出てきた名無しくんです。パラレルなので、ちゃんと仲良しになりました。

Posted on 2011/03/01 Tue. 23:35 [edit]

category: BANANA FISH(創作)

thread: 二次創作小説(版権もの  -  janre: アニメ・コミック

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01

コメント

甘い爆弾は、雪玉のことだったんですね! 

バナナフィッシュの最終回は、本当に美しく、それゆえファンの胸に永遠に刻まれることになりましたが、それでもみんな「もしアッシュが生きていたら・・・」と願わずにはいられなかったと思います。

こんな風に、再び心を通い合えたアッシュと英二を見ることができ、とてもうれしいです。
今回は、英二がずいぶんと大人というか男らしく、大和魂をみせてくれましたよね。
二人の雪合戦シーンも、映画のように目に浮かびます。

読みごたえのある、素敵な作品をありがとうございました!

うちのツインズからも一言あるそうです。

BA1号「おみやげが、アポロチョコのところがよかったです。ぼくも英二と雪合戦して、あそびたいです!」

BA2号「おみやげに、エンゼルパイがあるところがよかったです。茶色の巻き毛野郎は、あのあと不慮の事故にあってほしいです!」

URL | yukino #- | 2011/03/03 00:02 | edit

Re: 甘い爆弾は、雪玉のことだったんですね! 

yukinoさん、こんばんは~
ベイビーズと三位一体のコメントをいただき、とても光栄です!
原作設定を無視した初のSSでしたが、正直、かーなり楽しかったです。
いやぁ、パラレルの何でもアリ感っていいですねぇ。ちょっとクセになりそう…
復帰のあかつきには、ぜひyukinoさんも!
読み手として、yukinoさんのBANANAパラレルを読んでみたいです♪
そして英二のおみやげは、むしろベイビーズたち向けでしたよね。
大人アッシュには、ライトな嫌がらせ以外何ものでもなかったような気が…

URL | 東雲 #- | 2011/03/03 02:04 | edit

顔を狙うとこが、さすが英二! 

前・後編 通して、とても楽しませて頂きましたv
パラレルと言いつつ、本当に本編の続きにありそうな雰囲気ですよね!
未来に顔を向けることの出来る英二って、やっぱり心が強いです。
陽の力を持ってるっていうか……
原作ではアッシュの死と共にその力はナリをひそめてしまった感が強いですが
彼が生きていたら、本当にこういうやりとりをしたでしょうね^^

原作のラストは、きっとあれが BANANA FISH にとっての最上のラストだとは思ってますが、
アッシュ英二ファンとしては、こういうお話を読めてとても幸せです。

真っ直ぐにアッシュに向き合おうとする英二の思いも
英二を守りたいが故に遠ざけようとするアッシュの思いも、
東雲さんの巧みな文章のおかげで、胸にすーっと入ってきました。

ところで、雪玉をアッシュの顔面めがけて投げるなんて
世の中広しといえど、英二くらいにしか出来ないですよね ^^
さすが英二です!

URL | 芙月 #YVWDSDMY | 2011/03/08 00:09 | edit

Re: 顔を狙うとこが、さすが英二! 

芙月さん、ご無沙汰しております~
感想をいただき、ほんとにありがとうございます。
原作が完璧なぶん、パラレルはなかなかに敷居が高かったのですが、
「まあ、こういうのもアリかも」くらいに読んでいただければ
とても嬉しいです(弱気だ…^^;)。
とびぬけた反射神経の持ち主VS元スポーツ選手ってことで、
ほんとはもっと迫力のある雪合戦シーンが書きたかったんですが、
筆力のなさはいかんともしがたく…
アクション(?)シーンって、ほんとにむつかしいですねぇ。

あ、こんなところでなんですが、来週、
芙月さんのおすすめ映画を観にいく予定です。
そしたら、イラストの感想を含めてまた書き込ませていただきますね~♪

URL | 東雲 #- | 2011/03/08 23:39 | edit

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