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Quiet Day

「BANANA FISH」二次元妄想小説サイト。

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赤い月 

チャイナタウンの路地口で、彼は車のドアを開けた。

「お前たちは、ここまででいい」
「ですが月龍さま、おひとりでは…」
「いいんだ。ついてくるな」
静かに、だが断固と首を振る。

その決意の固さにひるんだように、側近は乗り出した身体を車の中に戻した。
あきらめ悪く言いつのる。
「ではせめて、銃をお持ちください。丸腰ではあまりに危険です」
「いらないよ。僕を誰だと思ってる」
そっけなく言い捨て、月龍はチャイナタウンに足を踏み込んだ。
小茴香や五香粉や唐辛子が混ざりあった臭気が、身体を包みこむ。
その中でひときわ強く香る、香の匂い。

その日は、ラオ・イェン・タイ━
シンの兄の葬儀が行われる日だった。


あまり人気のない路地裏では、小さな子どもたちがそこここで遊んでいる。
月龍が歩を運ぶと、彼らは目をまんまるにしてその姿に見入り、
やがてあわてたように建物のかげに逃げていった。
まるで、何かまがまがしいものでも見たかのように。
月龍は整った顔を、わずかに歪めた。

きょうの彼は、艶のある黒のチャイナ・スーツに身を包み、
髪もゆるめずにきっちりと束ねている。
だが、そんな地味な装いでも、
天女にもたとえられたその美貌は、否応なしに目立っていた。
この身について回る家名と同じく、まるで呪いのように。

母と引き離され、ひとりでこの世界に投げ出されたときから、
彼はひたすら欲していた。
この呪われた家名にもひるまない誰か。
一族と自分を焼きつくし、滅ぼしてくれる誰かを。

あの冷たく燃える炎のような金髪の少年に出会ったとき、
やっと待ち望んでいた人に巡り会えたと思った。
そう信じたのに、あの日本人のせいですべて台なしになった。
月龍は唇をかんだ。

アッシュがあの黄色い小猿に心を奪われ、
友情だの愛情だのという馬鹿げたたわごとにからめ取られていくのを、
月龍は歯噛みするような思いで、ただ見ているしかなかった。

彼は、どうしてもアッシュに教えてやりたかったのだ。
自分たちにとって、人生なんてものはとうに終わっているのだと。

あとに残されたのは、獣の生だ。
安住の地をもたず、生き延びるための戦いが日常として続く日々。
戦いをやめるとき、命も終わる。

月龍は顔をあげた。
香の匂いがいちだんと強くなり、
笛と銅鑼の音が大きく鳴り響いている。
葬儀の列が、すぐそこまで近づいたのだ。


女たちの号泣する声が派手に響くなか、
先頭を歩いているシンは、恐ろしいまでに無表情だった。
その姿は、予想していたよりも月龍の胸を押しつぶした。
ボスとして意識的に大人びた振る舞いをしながらも、
隠しようもなく生命力があふれ出すような少年だったのに。

その感情のない瞳が道の端にたたずむ月龍をとらえ、
わずかに細められた。
後ろにいる母親らしき女に何かささやくと、
まっすぐこちらへやってくる。
葬儀の列の人々の視線が、いっせいに自分に集まるのがわかった。

「なんで来たんだ、あんた」
シンの低い声に、月龍は思わず身がすくんだ。
平坦で、感情のこもらない声。
彼は今まで、この少年のそんな声を聞いたことがなかった。

「わかってるだろう。
ここにいる奴らはみんな、あんたがラオを追いつめたことを知ってる。
李家の名前で守られてると思ってるかもしれないが、
ひとりで乗り込むなんてのは狂気の沙汰だ」
「ああ。わかっている」

月龍は短く答えた。
こちらをうかがう人々の目の中で揺れているのは、
憧憬、畏怖…そして憎しみの光。

「…あのとき、誰もが自分以外の人間のために動いた」

震えるな、僕の声。

「アッシュも、おまえの兄も、あの小猿も、ブランカもみんな。
ただ自分のことを哀れんでいたのは、僕だけだった」

そう。
だからきょう、自分はひとりでここへ来たのだ。
この少年が背負うことになる重荷を、少しでも分かち合うために。

月龍は勇気をふりしぼって、シンと目を合わせた。
シンが何かをさぐるように、じっと彼の白い顔を見つめる。
やがてそこに何を見出したのか、シンは小さくうなずき、葬儀の列を振り返った。

「聞け!!」
シンがいっぱいに声を張った。
「李家の嫡子、李月龍どのも、この葬儀に参列する」

列の中にどよめきが走った。
うろたえるような声に混ざる、明らかな不満の声。
それを制するように、シンがなお声をはりあげた。

「我々は、兄弟の契約を交わした! 以後、彼は自分の家族だ。
彼へ不満がある者は、まず、このシン・スウ・リンに言え!!」

家族。

シンの口から発せられたその言葉に
月龍の心臓はコトリと弾み、やわらかなどこかへ着地した。
生涯ついてまわるはずだった暗闇に、淡い金色の光をばらまいて。

彼もこうだったのだろうか。
月龍はふと、いまは亡い人を思った。
アッシュもあの小猿の前で、こんな気持ちを味わったのだろうか。
切なくて、舞い上がるほど幸せで、
みじめで、嬉しくて。

月龍は、シンに手を引かれるようにして、葬儀の列に加わった。
あちこちから向けられる強い視線を痛いほど意識しながら、
しゃんと背をのばし、前を見据える。
隣にいる義兄弟のために。
彼を愛し、彼のために死んでいった男を見送るために。

後ろから、女たちが大声で泣く声が聞こえる。
その悲痛な声に、否応なく母の最期を思い出した。

━お願い、その子にだけは手を出さないで。お願い。お願い。

鬼に貪り食われながら、彼女はそう叫んでいた。
叫び続けて、そうして死んでいったのだ。
月龍は目をつぶった。

媽媽。マーマ。

美しい人だった。
美しくて、だけどとても弱い人だった。
その運命に、何ひとつあらがうことができないほどに。

葬儀の列が、ゆっくりと動き出す。
月龍は、隣を歩くシンの横顔をそっと盗み見た。

遠い遠い昔から、この身体にくすぶる狂った炎。
その火はまだ消えていない。今は。

もう、ひとりじゃない…そんな思いには、まだ慣れない。
独りであることで、もちこたえられていたこともあるのだ。
それでもいつか、永遠のひとり遊びからきっと抜け出す。
おまえが側にいてくれるのなら、いつかきっと。

月龍はシンと並び、ゆっくりと前を見て歩いた。
春の強い風が花びらを散らしていく中を。
真っ直ぐなタオ(道)を。

END


ついに「英二」と名前で呼ぶことが一度もなかった、この若様。
原作ではけっこう名前で呼んでましたが、心の中では「このチビ! 猿!」と罵っていたに違いないかと。

Posted on 2011/04/10 Sun. 22:06 [edit]

category: BANANA FISH(創作)

thread: 二次創作小説(版権もの  -  janre: アニメ・コミック

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コメント

若様だ! 

ラオの葬儀・・・
喪服のユーシスの姿が、目に浮かぶようです。
いつも東雲さんの作品には、「そう、そう、きっとそうだったんだよね」と納得させられるんですよ。
ユーシスは、英二のこと、本当に憎んでたんでしょうね。「小猿」って、絶対に思ってましたよね。
でも、最後はシンが義兄弟になってくれたからよかったのかな・・・

まだまだ周囲は落ち着きませんが(余震と原発が怖いです・・・)、こんなときだからこそ、大好きなバナナのお話が読めて本当にうれしいです。癒されてます。
どうもありがとうございます!

URL | yukino #- | 2011/04/14 00:41 | edit

若様です! 

いつもあたたかいコメントをいただきありがとうございます、yukinoさん(^^)
東北も関東も余震が続き、まだまだ落ち着かない日々ですねぇ。
早く日本じゅうの人が、おだやかな毎日を取り戻せるといいのですが…

連載時には、若様のアッシュへの感情って今ひとつ謎だったんですよね。
「きみは敵対したいのか、仲良くなりたいのかどっちなんだ?!」っていうか。
あ、英二にムカつくのはなんとなくわかる気がしました(笑)

今回は「アッシュに殺してほしかった」という私なりの勝手な解釈で
話を展開してしまいました。
たぶん本意じゃないと思うので、「ごめんね若様」と謝っときます<(_ _)>

URL | 東雲 #- | 2011/04/15 00:04 | edit

 

初めまして僕もこの作品に感銘を覚えた者です
漫画ではよく子供時代が悲惨で歪んだ性格の人ってトロくて天然みたいな人に牙を向く描写がありますが若様はその典型ですな。まあ僕も
学生時代苛められてたからどっちかといったらユーシス的な思考よりですが、普通に生きてればある程度の世間のシビアさ分かるでしょうし若様に同調するんじゃないでしょうかねえ

URL | おつまみ #JalddpaA | 2013/02/15 12:29 | edit

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