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Quiet Day

「BANANA FISH」二次元妄想小説サイト。

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終わりなき夜に -シン編- 

その電話は、深夜にかかってきた。

『あいつは、明日、ここを出る』
だから、頼む。

ユーシスのコネで、掘り出し物の物件が見つかったと連絡してから約一週間。
明日、英二はダウンタウンを出ていく。


その日、シンは落ち着きなく
空っぽのアパートメントの中を歩き回っていた。
自分でも馬鹿馬鹿しく思えるほど緊張していた。
英二と二人きりで会うのは、あの別れの日以来だった。

彼がこの街に戻ってから、
会うときにはいつも他の誰かがいた。
マックスとジェシカ。
アレックスやボーンズ、コング。

ひとりで英二に向き合うのがこわかった。
会えば、死の話からはじめなければならない。
アッシュの死。
親友で兄だった男の死。
思えば、彼らが近づいたのも、ショーターの死がきっかけだった。

シンは苦く笑った。
まるで自分たちは、死によってわかちがたく結びついているかのようだった。

じゃあ、あの二人は?
アッシュと英二は、何で結びついていたのだろう。

あの二人の間にあったものを、言葉であらわすのは難しい。
ガキっぽい軽口の応酬。
黙っているときにも流れていた、あのやさしい空気。
彼らはそこにいるだけで、ただ調和していた。

その完全な結びつきを壊したのは、自分の兄なのだ。
シンは心が怖じけるのを感じた。

それでも、英二に会わなければならない。
アレックスに約束したから?
確かにそうだが、それだけが理由じゃない気がする。

きっと自分は、彼とわかちあいたいのだ。
誰とも分け合えない、この胸の痛みを。
今日も明日もあさっても、
あのとき何かできなかったのかを繰り返し考え、
眠れないままに夜明けを待つ、終わらない夜を。

「…入ってもいいかな?」
いきなり後ろからかけられた声に、シンはびくりと振り向いた。
スーツケースと一緒に玄関にたたずむ、小柄な姿。
「追い出されちゃったよ」
久しぶりに会う英二はそう言って、困ったように笑った。


彼は横たえたスーツケースの上に座りこみ、
もの珍しそうに室内を見回した。
「すごいね。広いし、きれいだ」
「…気に入ったか?」
「そりゃあ。でも、予想外だったな。
前の部屋とそんなに家賃変わらないのに」
「ワケありなんだよ。
女にフラレて自殺した前の住民の幽霊が出るっていうし、
管理人はせんさく好きなおせっかい爺さん。
おまけに隣は音楽学校の落ちこぼれで、一晩中ヴァイオリンをかきむしってる」
「何それ、どこまでが本当?」
「さあな、住んでみりゃわかるだろ」
シンは肩をすくめた。

「それよりおまえ、荷物はたったそれだけか?」
「うん。着替えとカメラ一式くらいだから。
とくに家具とかもってないしね」
「じゃあ、ひと通りそろえに行くか」
「いいよ、そんなの。
せっかく広いところを見つけてもらったんだし、
とうぶんこの空間を楽しみたいな」

彼はひなたの猫のように目を細め、窓辺をながめた。
つられて、シンもそちらに目をやる。
まだカーテンもかけていない窓からは、
日曜日の明るく美しい日光があふれていた。

遠くから聞こえるサイレン。
ドライバーたちが絶えず鳴らしているクラクション。

ふたりはしばらく、その都会の音楽に耳を傾けた。
暖かな五月の日光を分かち合いながら。

「…みんな、ぼくが駄目だというんだ」
英二は独り言のように呟いた。
「学校へ行って、写真を撮って、働いて、眠って。
ちゃんとやれてるつもりなのに。
アレックスも、マックスも、ジェシカも、みんな」

どうしたらいいのかわからないんだ。
英二はシンの顔を見上げた。
途方にくれた子どもの目だ。

シンは、あの強い瞳の少年を思い出していた。
バイクで駆け抜けた、晩秋の日。
今の彼は、疲れ、冷えきり、しずかに、絶望していた。

黒い川が流れている。
その重い水にとらわれているのは、自分のはずだった。
いまは英二まで、その流れにのまれようとしている。
逃がしてやらなくては。早く。
だけど、何ていう川だった?

「英二」
「…なんて顔してるの」
「英二」
まぶたの裏が熱くなった。
本当は、会いたくてたまらなかった。

「すまなかった」
シンは絞り出すように言った。

すまなかった。すまなかった。
許してくれ。すまない。

壊れたレコードのように、シンは同じ言葉を繰り返した。

「アッシュは、きみのことが好きだったよ」
英二は静かに言った。
「いつだって、本当に好きだったんだ」
伝えられて、よかった。

どちらからともなく手を伸ばし、ふたりは抱き合った。

「あいつは、先に行っちまっただけだ」
シンはかすれた声でささやいた。
「いつか追いつく。嘘じゃない。だから」
「…また、いつか?」
「ああ。だからそれまでは」

オレといっしょにいてくれ。

その言葉に、英二の身体が震えた。
何かいいたげに小さく身じろぎし、
やがてシンの背中に回された指に、そっと力がこもった。

わずかに。
でも、確かに。

その感触がうれしくて、
シンはより強く彼を腕の中にとらえた。

しっかりとつかまえていなければ、きっと消えてしまう。
いなくなってしまう。
自分たちのために命を投げ出した、あの二人のように。

オレは言わない。
アッシュが握りしめていた手紙のことを。
あれがなければ、ラオにやられるようなことはなかったはずだなんて。
死んでも言わない。

そうして彼らはお互いの体にすがりつくように寄り添い、
同じリズムで脈打つ鼓動にそっと耳をすませた。

暗闇におびえる子どもたちがそうするように。
夜の底にとらわれてしまわないように。

いつまでも。

END


どこまでも暗いこのシリーズ、じつはまだエピローグ編があったりして…
しつこくて申し訳ないですが、もう少しおつきあいいただければとても嬉しいです。

Posted on 2011/05/15 Sun. 21:47 [edit]

category: BANANA FISH(創作)

thread: 二次創作小説(版権もの  -  janre: アニメ・コミック

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コメント

ありがとう、シン! 

東雲さん、こんにちは。
ハナを垂らしながら拝見しました・・・(汚くてすみません;)

・・・お恥ずかしい話なのですが、
私はいまだに、アッシュの死に絡んだ話を、冷静に読むことが出来ずにいます^^;
何年バナナファンやってるんだか・・・;;

ですが、今回のシン視点を拝見して、もう一度ちゃんと読ませていただこうと思い、
シリーズを最初からじっくり拝見いたしました。
私には「光の庭」効果は抜群で、シンはお守りのような存在のようなのです・・・

再読させていただくと、どの視点からのお話も素晴らしい作品で、
やさしく、心を揺さぶられました。
「光の庭」への序章として、
19巻と「プライベート・オピニオン」の間に冊子として挟みたいです・・・^^
エピローグも楽しみにお待ちしています!

URL | きいろ #tNbAf7jk | 2011/05/16 16:05 | edit

Re: ありがとう、シン! 

おおぅ、この畳み込むように暗い話をさかのぼって読んでいただいたなんて!
きいろさん、ほんとにありがとうございます~

じつは私も、読むほうでは圧倒的に
シリアスよりコミカルネタが好きだったりします^^;
とくにラブコメなんて、もう大好物!!
なのに自分が思いつくのは、どうにも陰気な話ばかりで…orz
きいろさんの4コマみたいに、原作のイメージを生かしながら
ポップで可愛いアッシュと英二を書いてみたいのですが。とほ。

それでもやっとこさここまでたどりついたので、
いただいたあたたかい感想を励みに、
なんとかエピローグまで今月中にアップしたいと思ってます。
こりずにご訪問いただければ幸いでございます~

URL | 東雲 #- | 2011/05/17 00:17 | edit

バナナフィッシュのラストシーンの後 

こういう場面があったのではないかと思います。
東雲さんのお話は、いつもそういう風に思えるほど、
とても自然で、ひきつけられるものがあります。

残された英二とシンは、こうやってお互いを支えあったんだろうな。

「オレは言わない。アッシュの手に握りしめられていた手紙のことを。
死んでも言わない」

シン、いい子ですねー。

東雲さんの旅行のお話も、楽しく拝読しています。
私は北海道に行ったことないので、いつか行ってみたいです。

今回も、素敵なお話に癒されました。ありがとうございます!

URL | yukino #- | 2011/05/17 00:55 | edit

Re: バナナフィッシュのラストシーンの後 

yukinoさん、こんばんは~
SSのみならず、旅行記にもご感想をいただきありがとうございます<(_ _)>

網走は本文のとおり、真冬以外は観光客も少ないようなので、
混雑してない北海道に旅行したいときはとってもオススメです!

シンと英二は、『光の庭』を初めて読んだとき、
「え、きみたちまだつきあいあったん?」と思ってしまったくらい意外な組合せでした。
そんなふたりがどうやって同居人とよべるまで近づいていったのかは、
まさに妄想のしがいがあるところですよね!
yukinoさんのそんなふたりも、ぜひ読んでみたいです(^^)
とても素敵なご感想をいただき、ありがとうございました。

URL | 東雲 #- | 2011/05/18 00:48 | edit

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