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Quiet Day

「BANANA FISH」二次元妄想小説サイト。

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プール 

「まあ、ここの住民で、あそこを利用したことがないだなんて!」

このところ、ずっと雨が降り続いている。
アッシュもその仲間たちも、自分には知らされない『用事』で、家をあけたままだ。

「あのプールはそりゃあすばらしいのよ、英二。
水質管理がしっかりされてるから水がやわらかくて、
あのイヤな塩素のにおいもしないの」

たまった写真の整理を終え、読みかけの雑誌も読みつくしてしまった。
いいかげん時間を持て余した英二は、
ふとスーパーでのミセス・コールドマンの熱弁を思い出し、
このアパートのプールを訪れる気になったのだ。

この建物のなかに、こんな立派なプールが隠されていたなんて。

英二は水に浮かびながら、ドーム型の天井を見上げた。
広々と贅沢な作りなのに、泳いでいるのは自分と年配の男性がひとりだけ。

この時間にきて正解だったな。
英二はひとり微笑んだ。
ビジネスマンが帰宅するには早いし、
主婦たちはちょうど夕食の支度を開始する頃合いだ。

夕日が差し込むプールの水を、
ゆったりした背泳ぎでかきわけるように進む。
泳ぐのは、ただ純粋に気持ちがいい。

英二が最後に泳いだのは、去年の夏だった。
まだアメリカにきたばかりの頃。

意識が水に溶け出し、記憶が散り散りに霧散していく。
 つめたい川の水面に
  降り注ぐ日光がきらめいて
   声が


「ひゃっほーー」
雄たけびのような歓声をあげて、真っ先にショーターが水に飛び込んだ。
アッシュ、英二がそれに続く。
三人とも、服を身につけたままだ。

何しろ初夏の気候の中、
男5人が車に詰め込まれ、走り続けてきたのだ。
着替えがどうこうより、まずほこりや汗を洗い流してしまいたかった。

英二は頭まで水にもぐり、ぷかりと浮かび上がって満足の吐息をついた。
夢見ていたのはまさにこれだと感じる。
つめたく澄んだ川の水に全身を浸すこと。
仰向いて水に浮かびながら、太陽のあたたかな光をまぶたに感じること。

「…すごく気持ちいい」
「だな」
素直な英二の感想に、傍らのショーターがにっと笑う。

「しかし川ってのは、水がつめたいもんなんだな」
「そうだよ、知らなかったの?」
「オレが知るかよ。生まれたときからNY暮らしで、
川で泳いだなんてのは、こないだのハドソン河が初めてだ」
「そうか…都会の子だったんだね、ショーターは。
ぼくは田舎の子だから、子どものころはよく川で泳いだよ」
「へぇ。それを言うなら、あそこにもカントリー・ボーイがいるぜ」
くいとショーターが親指でさし示した先では、
アッシュが水しぶきの少ない、きれいなクロールで泳いでいた。

「…いいフォームだね」
「ああ。まったく何をやらせても、しゃくにさわるくらい絵になりやがる」
ショーターの笑顔は、できのいい弟を自慢するそれに近い。
英二は目を細めて、まぶしい初夏の太陽を見上げた。
伊部とマックスは、ガソリンの補給がてら街へ買出しに行っている。
たぶん、あと1時間は戻ってこないだろう。

「あー、ところでな。あれは良くねぇよ、英二」
「え?」
「おまえ、目をつぶっただろ。銃を撃ったとき」
「あ…」

思い出した。
忘れっこない。
クラブ・コッドにトレーラーで突っ込んだとき。
あの日、英二は生まれて初めて銃で人を撃ったのだ。

「いいか、ドンパチのときに何があっても目をつぶるな。
やるにしろ、やられるにしろ、
しっかり目を開けて、何もかも見届けるんだ」
「うん」

英二は恥ずかしかった。
何もかも本当のことを見たいといったのは、自分なのだ。
それなのに。

「うん、わかった」
「よーし、いい子だ」
ショーターはくしゃっと顔じゅうで笑うと、
英二の頭をぐりぐりとなでた。

「ちょっ…やめろよ、子どもじゃないんだから!」
「んー、おまえって、うちのチームの二番手と同じくらいのサイズだなぁ」
「きみんとこの?」
「おう。ま、あのガキにこんな真似したら、間違いなく瞬殺されるけどな。
カメハメ波!とかいって」
「ドラゴンボールだよ、それじゃ」
英二は思わず吹き出した。
この陽気で世話好きな青年に、腹をたてるのはむずかしい。

「へくしゅっ」
ショーターは派手なくしゃみをした。
「あー、いけねぇ、体が冷えてきたぜ」
「大丈夫? いちど水からあがったほうがいいよ」
「だなぁ。よっこいせっ…と」
ざばっとしぶきをあげて、ショーターは岸によじのぼった。
「じゃあオレは、ちょっくら昼寝してるわ。
おまえらは楽しく遊んでろよ」
「はいはい、いい夢をね」
英二はひらひら手を振った。

抜き手をきって泳いでいたアッシュが、
濡れた髪を指でかき上げながらそばへやってきた。
「なんだ、年寄りはダウンかよ」
「またそんな…。まだ頭の傷が治ってないんだよ、ショーターは。
そういえば、きみのほうは平気?」
「ああ、もう何てことないぜ」
オーサーの弾丸がかすった肩を、ぐるぐる回してみせる。
「…ほんとにタフだよねぇ」
「なんだよ、そのあきれたような言い方は」
「ほめてるんだって…んっ!」
アッシュがぴっと水を飛ばし、英二が負けずにそれに応戦する。
ふたりは子犬がじゃれあうように、ざぶざぶと水をかけあい始めた。
平和な田舎町の人けのない川辺に、少年たちの快活な笑い声が響く。

この輝かしい初夏の太陽。
濃い影をおとす木々の緑。
金色の髪の友人の弾けるような笑顔。
英二のなかで、ふっと現実感が遠のいた。
まるで日本で思い描いていた、空想のアメリカにいるみたいだ。

「わっ!」
一瞬動きをとめた英二は、アッシュが浴びせた水しぶきをもろにかぶった。
目をぎゅっとつぶると同時に、平衡感を失った体がぐらりとよろける。
「英二!!」
とっさに手をのばしたアッシュに、英二は両腕でしがみついた。
ふくらはぎに痙攣のような痛みが走る。

「うわっ…おい、英二、そんなにしがみつくな!」
「ご、ごめん、でも、足がつっちゃって…」
こむらがえりをおこして焦る英二を、
アッシュはなぜか困ったように引きはがそうとする。
水の中でじたばたともがく二人の頭の上から、
おかしそうな笑い声が響いた。

「やれやれ、おまえら、オレが頼りなんだな。ん? そうだろ?」
ショーターの恩着せがましくも嬉しそうな口調に、
アッシュが眉をしかめる。
英二はアッシュにちらりと視線を流し、目配せを送った。
アッシュがにやりと笑って、小さくうなずく。

「ほれ、つかまれ」
無造作に差し出されたショーターの腕に、
ふたりは勢い良く同時にとびついた。
「わっ…このバカ!」
体勢を立て直すまもなく、
あっというまにショーターの身体は水に引きずり込まれた。
派手な水しぶきがあがる。

わっとばかりに笑い出したふたりに、
水面にぽかりと浮かび上がったショーターが怒ってかみついた。
「ふざけんなよ、このガキども!
このおにいさまのせっかくの親切を…っぷ!」
アッシュがその顔に、思いっ切り水をぶっかける。
「~ってめぇ、今日こそ勝負つけてやるぜ!」
「上等だ!!」

今度はショーターとアッシュの水の掛け合いが始まった。
その光景を笑いながら見ていた英二は、
まだひきつる足をなだめながら、ゆっくりと張り出し板のところへ泳いでいった。

いつかこの光景を思い出すとき、ぼくの胸は痛むだろう。
ふと、そんな予感が英二の胸をかすめた。
でも、夏の陽射しには魔法がある。

やがて遊び疲れた三人は水からあがり、木陰でごろりと寝転んだ。
服と身体を乾かしがてら、うとうとと昼寝をする。
素朴で贅沢な、昼下がりのひととき。

そうして大人ふたりが戻り、また車に乗り込む頃には、
英二の胸をよぎった予感はあとかたもなく消え去っていた。


『オレが頼りだろう?』
陽気な友人の声が、やさしく耳をなぶる。
嫌なことがひとつもない、奇跡のような一日。
陽光が降り注ぐ三人の世界に、
暗い影を落とすものは何一つなかった。

英二はゆっくりまばたきをした。
今なら言える。
あれはきっと、小説や映画でくりかえし描かれる
永遠によく似た幸福な夏の日だった。
あれからもう一年も経った。
まだ一年。

英二はゆらゆらと揺れる水の中で、
こじあけるように目を見開いた。
わかってる。
目は閉じない、何があっても。
きみが、教えてくれた。

ぼくはもっと強くなるよ、ショーター。
彼と並んで歩き、
彼の悪夢を追い払い、
彼の避難場所になれるほど、強く。
今は無理でも、いつか必ず。

照明のきらきらした明かりが目にしみる。
水面ごしに見える世界は
どこまでもゆらゆらと頼りなく、綺麗だ。

そろそろ帰る時間だ。
でも今はもう少しだけ、この水に漂っていたい。
大丈夫、彼が帰ってくるまでには部屋に戻り、
何もなかったように笑ってみせるから。
きっとそうするから━

水はすっぽりと英二を包みこみ、
からかうように、なだめるように、やさしく揺らしつづけた。

それは、懐かしい友人のあたたかな腕のようだった。

END


イラスト集のアッシュと英二の短編に、ショーターをプラスして妄想してみました。
だって、時期的にぜったい彼もいたはずだと思うんですよ!

Posted on 2011/06/20 Mon. 00:57 [edit]

category: BANANA FISH(創作)

thread: 二次創作小説(版権もの  -  janre: アニメ・コミック

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コメント

ショーターのいたケープコッド・・・ 

ケープコッドでのアッシュと英二の時間は、私のとても好きな場面なのですが、
そういえば、そこにはショーターもいたのですよね。
とてもいい奴でしたよね、ショーター!

イラスト集では、アッシュと英二のツーショットばかりでしたけど、
東雲さんのおかげでショーターも喜んでいることでしょう。

一枚の素敵な絵のような作品、堪能させていただきました!

URL | yukino #- | 2011/06/20 23:54 | edit

Re: ショーターのいたケープコッド・・・ 

そーなんですよ、あのイラスト集のふたりにはうっとりさせられましたが、
よく考えたらいてるはずなんですよね、ショーターも!
彼がいたらにぎやかだっただろうなぁと妄想しながら、楽しく書きました。

はじめてコミックスの1~2巻を人から借りたときは
まったく心を揺さぶられなかったばちあたりな私ですが、
ショーターのことはすぐ好きになった覚えがあります。
というのも、モデルとなった彼がいたバンド「爆風スランプ」が大好きだったから!
生まれてはじめていったライブも彼らだったんですよねぇ、あー懐かしい…

と、とにかく、夏イコールBANANA導入編の季節という印象が強いもんで、
またショーターが登場する話も書きたいと思います!
ご感想いただき、ありがとうございました~

URL | 東雲 #- | 2011/06/21 21:32 | edit

リンクしました! 

読み進めながら、「あ、イラスト集のあのケープコッドのところのお話かな?」
とだんだん気付きました。
私は、あの数ページがすごく好きなのですが、
本編の緊張感のある雰囲気から、どうにも脳内で繋がってなかったんです^^;
でも、こちらを読ませていただいて、やっと繋がりました!
鍵はショーターかもしれない^^

私もショーター大好きですv
グリフとは全然違うタイプだけど、アッシュにとって彼もまた「兄貴」だったんでしょうね。

一足先に、さわやかな夏を味わわせていただきました^^

URL | きいろ #tNbAf7jk | 2011/06/23 22:28 | edit

Re: リンクしました! 

きいろさん、いらっしゃいませ~

そーなんです、イラスト集はファンサービスっぽいというか、
原作の流れとは別モノな印象すら受けてしまいそうですよね^^;
初期のころのアッシュはガラも目つきも悪い威勢のいいあんちゃんで、
ショーターの死以降とはかなりキャラが違いますし。
それだけ彼の死の意味は大きかったいうことかしら…
グリフとは違うノリで『理想のアニキ』ですよね、彼は!

相変わらずうす暗さがつきまとってはおりますが、
きいろさんに『さわやかな夏』と言っていただけたので、
今後この話については「当社比ではじゅうぶん陽気なSS!」と胸をはろうと思います!
ご感想いただきありがとうございました<(_ _)>

URL | 東雲 #- | 2011/06/25 00:42 | edit

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